映画『愛されなくても別に』
井樫彩監督、南沙良さん、馬場ふみかさん名古屋で語る

7月4日(金)に全国公開を迎えた映画『愛されなくても別に』。毒親のもとで育ち、人生を奪われてきた3人の大学生の葛藤と、自らの人生を歩み始める姿を描いた本作は、そのテーマも相まって大きな注目を集めています。
今回は映画のキャンペーンと中部日本国際映画祭のキックオフイベントのため名古屋に訪れた、井樫彩監督、宮田陽彩(ひいろ)役の南沙良さん、江永雅役の馬場ふみかさんにインタビュー。作品への想いや撮影中のエピソードなどを伺いました。
本作は、2021年に第42回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃さんの同名小説が原作。映像化するにあたっては、原作で描かれている心の声を映像でどう表現するかでかなり試行錯誤したと振り返ります。
「原作は心の声がかなり繊細に書かれているので、それをそのまま映像にするわけにはいかなくて、その心の声をどう映像に変換していくかが一番難しく、同時にやりがいも感じました」。

色の使い方にも監督のこだわりが感じられます。「私は、全体的に陰影がついている方が好みで。明るい場所と影があるような、絵画のような作りが好きなので、そこは(私らしさが)出ていると思います」。
名古屋には、何度か来ている3人。馬場さんは、プライベートでも名古屋を訪れることがあるそうで、「去年日帰りでイベントに来て、ひつまぶしを食べて帰りました」と明かしてくれました。
壮絶な過去を持つ宮田陽彩(ひいろ)と江永雅を演じた南さんと馬場さんは、それぞれの役柄へのアプローチについてこう振り返ります。

南さんは、陽彩について「とても不安定な子だという印象でした。でも、自分に共感できる部分も少なからずあったので、そういう部分を大切にしながら、彼女の繊細な部分をしっかり表現しようと心がけました」と、役の内面へと深く向き合ったことを明かしました。
役作りに関しては監督が撮影前に資料としてくれた陽彩の年表が役立ったといいます。
一方、馬場さんは雅を演じるにあたり、初めてアクティングコーチの指導を受けたそう。
「陽彩は今が一番辛い状況ですが、雅は壮絶な人生を送ってきたけれど、そこから自力で抜け出した先にいる女性。実際に演じるシーンではなかったのですが、撮影前にアクティングコーチの方に、母親とのやり取りをレッスンという形でやらせていただく機会をいただきました。劇中では、陽彩に自分の生い立ちを話すシーンで言葉として出てくるだけですが、そのシーンを実際に一度演じてみたことで、実感が伴って役柄に深く近づけた気がします」。
井樫監督は、南さんのキャスティングについて「南さんとは以前、ABEMAの短編映画『恋と知った日』でご一緒していて、またご一緒したいと思っていました。今回のプロデューサーの佐藤さんも『恋と知った日』を一緒に作っていたので、原作を読んだ時に南さんが陽彩に合うのではないかと言ってました」。
馬場さんについては、「この作品の準備中にドラマ『けむたい姉とずるい妹』でご一緒していて、雅役に合うかもしれないと思ってお話ししました」と、一緒に仕事をしたことがキャスティングに繋がったことを明かしました。
南さんと馬場さんの関係性については、馬場さんが「南ちゃんは基本的にいつも自然体でフラットな感じで現場にいるんです。一緒にいて心地良いタイプでした。変に頑張ることなく一緒にシーンを撮れたし、とてもやりやすかったです」と語り、南さんも「本当にその空気感のままお芝居ができたのが一番」と頷きました。
特に、2回目の自転車のシーンでは、「南さんが自電車を漕ぐのが下手すぎてめっちゃ笑ってるのがすごく可愛かった。あれは素だよね」と監督が明かすなど、和やかな撮影現場の様子がうかがえました。

過干渉の母親から逃れるため、新興宗教「宇宙(コスモ)様」にのめり込む木村水宝石(あくあ)役を演じた本田望結さんについても、井樫監督は「ものすごくぴったりだと思いました。育ちの良さに加えて、大人びた役どころを見事に演じてくれました」と絶賛。
南さんは本田さんとのエピソードとして、「本田さんが、私が当時ハマっていたゲームに参加してくれて…実はすごく気になっていることがあるんです」と、その中身は今後どこかで明かされるかもしれません。
【7月5日実施の舞台挨拶で中身が明らかに】そんな本田に対して、なぜかクスクス笑いが止まらない南。「沙良さん、今日ずっとわたしの顔を見て笑っているんですよ!」という本田に対して、「1年間くらい、ずっと聞きたいなと思っていたことがあるんですよ」と告白した南。「撮影当時に、わたしがその時ハマっていたゲームを入れてくださったんです。友だちの島にも遊びに行けるゲームなんですけど、そこに遊びに行ったら、本田さんのペットの名前が『沙良』だったんですよ。もうビックリしちゃって。『どういうこと?』って。でもわたしの『沙良』じゃないかもしれないし……なんでペットの名前が『沙良』なんだろう?ってすごく気になっていました」と語ると、本田も「それは沙良さんに教えていただいたゲームだから。しかも沙良さんの漢字で『沙良』です」と説明。本田の律儀な行動に南も思わず「やばい!やばいですね!」と興奮気味。そんなふたりを笑いながら見ていた馬場は「わたしはそんなやり取りがあったなんて知らなくて。ふたりが仲よさそうにしゃべっているなと微笑ましく見てました」と振り返った。公式サイトより
一方、馬場さんは、本田さんの集中力に感銘を受けたと言い、「一気に役に入り込む感じがすごいなと思って見ていました。勢いがすごくて、素敵だなと思いました」と語りました。
『愛されなくてもいい』その先に描かれる希望

最後に、映画を通して観客に伝えたいメッセージや観てほしいポイントを聞くと、井樫監督は、「思ったよりも重いだけの映画ではなく軽やかなシーンや、可愛らしいところ、人生を掴み取ろうとする力強い二人の物語だったりもします。ぜひ劇場で見ていただけると嬉しいです」とPR
続けて馬場さんは、「私は「水」が好きです。この作品には、いろんな形の水が出てきて、それがすごく好きなんです。ちゃんと綺麗な水の中に入っているキラキラとした感じ、それが二人の気持ちと重なって輝いているシーンがあって…すごくいいなって思っています。ぜひ劇場で観る時に注目してみて観て下さい」と、見どころを挙げました。
南さんは、「私や陽彩もそうだと思うのですが、不安でいることが安心材料になってしまうという方が、世の中にはたくさんいらっしゃると思うんです。なので、そういう方に寄り添えるような映画になっているんじゃないかなと思います」と、観客へのメッセージを寄せ締めくくりました。

映画『愛されなくても別に』は、虐待、親の過干渉、性暴力など、家族間で生じる重いテーマを扱いながらも、登場人物たちが希望を掴み取っていく姿を繊細かつ力強く描いた作品。ぜひ劇場で彼女たちの「青春逃走劇」を目撃して下さい。
ライター:にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)
作品紹介
タイトル:「愛されなくても別に」
出演:南沙良 馬場ふみか
本田望結 基俊介 (IMP.) 伊島空 池津祥子 河井青葉
監督:井樫彩 原作:武田綾乃『愛されなくても別に』(講談社文庫)
脚本:井樫彩/イ・ナウォン
主題歌:hockrockb「プレゼント交換」(TOY’S FACTORY)
企画・プロデュース:佐藤慎太朗
製作幹事・制作プロダクション:murmur
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会
公式 HP:aisare-betsuni.com 公式 X&Instagram:@aisare_betsuni
ミッドランドスクエアシネマ、新宿ピカデリーほかで大ヒット上映中




