『千夜、一夜』
北朝鮮による拉致の可能性を排除できない「特定失踪者リスト」が公開された際、
家族に「拉致ではなく、自分の意思で別の場所で暮らしている」と連絡を入れた事例が多くあったという話に、
久保田直監督が興味を持ったことから作られた本作。
離島の港町で突然、姿を消した夫を、30年間待ち続ける女・登美子を主人公に、
残された者、姿を消した者、それぞれの想いを静かに描き出していく。
夫はなぜいなくなったのか。
どこに行ってしまったのか。
生きているのか死んでいるのかもわからない。
田中裕子が凄すぎる!
どうしようもない不安と悲しみを抱えたまま、前に進むことも幸せになることもすべてを諦め拒絶して、最愛の夫が消えたあの日に生きている。
登美子を演じる田中裕子が凄すぎる!
作業エプロン&ゴム長靴も自然に馴染み、たぎる想いを内側に秘めた孤高の人を演じさせたら田中裕子の右に出る者はいない。
黙って座っているだけで、登美子の想いが伝わってくる圧巻の演技に、どんどん惹き込まれて目が離せない。
そんな田中裕子をひたすら見つめ続けるカメラ。
映像よりも、役者の芝居をありのまま捉えることにこだわりを感じるなと思ったら、監督はドキュメンタリー出身だそう。
脇を固めるキャストも実力派揃い。
尾野真千子、安藤政信、平泉成はいつも通りの安定感。
ダンカンは力不足な感じもあったけど、名優を相手に大健闘。
そして驚いたのは白石加代子!
私の中では何十年も前から全く歳を取ってない。永遠の70歳ですw
さて今回の写真のアイテムはカセットテープ。
夫との幸せな時間が記録されたカセットテープを何度も聞く登美子の姿が切なかった。
「千夜、一夜」
2022年製作/126分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会
映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。 朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。 映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲