映画『Winny』秘話!監督した松本優作さんが語る「東出さんには何かが乗り移っていた…」

東出昌⼤と三浦貴大をダブル主演に、ネット史上最大の事件を描いた話題の映画『Winny』。10日に公開された本作を撮りあげた松本優作監督が、15日ミッドランドスクエアシネマ16周年記念特別企画として行われた【松岡ひとみのシネマコネクションVOL36】の上映トークイベントに登壇。映画の誕生秘話や製作の裏側、完成するまでの長い道のりを振り返りました。

映画『Winny』は、ファイル共有ソフト「Winny」をめぐる実話を基に、開発者の権利と未来をかけて権力やメディアに立ち向かった男たちの物語です。

Winny事件として騒がれた時は「まだ子どもだった」という松本監督が、この企画に出会ったのは2018年のこと。起業家、古橋智史さんが企画し「ホリエモン万博」の「CAMPFIRE映画祭」でグランプリに輝いた作品。同映画祭に別イベントで登壇していた縁から、監督の打診を受けたという。

映画『Winny』にこれだけ多くの人が関心を持ってくれたことが嬉しい

松岡「Winny事件については?」

松本「(映画化の話をいただいた)当時は、僕もコンペの時の説明で『Winny』を知ったぐらいのレベルで、そもそもネットに詳しいほうではなかったので、勉強するところからのスタートでした。最初は、国会図書館に通って、アーカイブされた当時の新聞記事やウェブ記事を、ほぼほぼ全部かき集めて。全体を把握しようと調べるうちに、金子勇さん(Winnyの作者)がどういう人なのかはどんどんわかってきたのですが、それだけだと、映画にならないので、警察の方も含めて、当時の関係者に取材していきました、そうすると事件に対する印象がどんどん変わっていくんですよ」

松岡「三浦貴大さん演じる弁護士の壇さんにも?」

松本「檀さんや、吹越満さんが演じた主任弁護士の秋⽥さんとかにも取材して、ただ当事者だけだと偏ってしまうので、当時を知っているけど事件に関わってない弁護士の方なんかにも取材して。4年ぐらいかけて、いろいろお話を聞きつつ、同時に資金調達しながら…資金調達も簡単ではなくて、こういうお話なので最初は自主映画ベースで話が進んでいて、都内の一館ぐらいからスタートして広げていければいいかなという形で始まったので、こうやってたくさんの劇場で公開していただけるのが、自分でもちょっとまだ信じられてなくて…全国でこうして公開できたことには『希望』を感じました」

松岡「広がっていきましたね」

松本「公開される前に Winny事件 に対して、皆さんが関心を持っていただけた事が僕はすごく嬉しくて、この映画を通して、いろいろ感じて考えていただいて、議論していただけるきっかけになればいいなって思っています。映画では「Winny事件」を描いてますけど、それは取っ掛かりにすぎなくて、裁判だったり社会的な空気だったり、現在とリンクしているような問題がたくさん描いているので…」

松岡「そうですね」

松本「Winnyと同じ時期に(同じP2P技術を用いた)Napsterというアメリカの同じようなソフトがありまして、ショーン・パーカーというFacebookの初代CEOにもなった人が作ったものなんですけど、Winnyと同じような流れで、著作権を無視したファイル交換の責任を問われて民事とかで問題にはされたんですけど(結果的に操業停止になっている)、責任を問われて逮捕されるようなことはなくて(※コカインの所持容疑では逮捕されている)、結果的に音楽ストリーミングサービスのSpotifyに関わっているんですね。日本も(危ないから)潰すのではなく、こういう風に、技術をよりよい方向に導くことはできなかったのかなぁと」

松岡「理不尽な話ですよね」

松本「理不尽とか不条理みたいなテーマは、それこそ自主映画の頃から作ってきたので、過去作にも通じるテーマなんですけど、本作はあくまで「僕たちから見た…」事件を映画で描いているので、いろんな方向から捉えていただいて、議論に繋がればいいと思うんですけど、実際にあった話なので、できる限り事実に忠実になるようには心がけていました」

7年分の裁判資料は…天井にも届きそうな量で

松岡「金子さんが無罪になるまでの7年間、資料も全部読み込んだんですよね?」

松本「7年分の裁判資料が本当にすごくて、出力したら天井に届きそうなぐらいの量があって、全部一応目を通して鍵(キー)になりそうなポイントを抜き出していきました。最初に出来上がった脚本は、連ドラ10話分ぐらいのボリュームで、そこからどんどん削ぎ落して、金子さんのキャラクターをしっかり描きつつ、権力と闘った弁護士のお話でもあるのでそこを大切にしつつ、あとはサイドストーリーとして吉岡秀隆さん演じる警察官・仙波敏郎のお話も描いています」

今の日本映画で、ここまで実名を出してやっているものは少ないんじゃないかと…

当時の金子さんを知る人たちから…

松岡「「Winny」を開発し、のちに著作権法違反幇助の容疑で逮捕されてしまう主人公の金子勇さんに東出昌大さん、彼の弁護を担当する壇俊光弁護士を三浦貴大さんが演じています」

松本「金子さんって、すごく神秘的というか、不思議な魅力がある方で、これを表現できる役者さんは誰なのか考えていた時に、東出さんが思い浮かんで、確かに見た目は全然違うし、合うのかなぁという気持ちもあったりしたんですけど、本人とお会いした時に、既に金子さんのことを調べられていまして、僕らが4年ぐらいかけて調べているのに、同じレベルで話ができるんですよ」

松岡「それはスゴイ!」

松本「なんか、そこまで熱意を持って調べて下さっていたので、この人なら信頼できるんじゃないかと思いましたし、お願いしたいなと思いました。あとね、いろいろ辛いことも含めて、大変なことを経験してきた彼が、金子さんにリンクする部分もあって、いろいろ経験してきた彼だからこそ、できる芝居があるんじゃないかと、何よりも勝るものができるかもしれないという思いもありました」

松岡「実際の金子さんは、東出さんが演じたような方なんです?」

松本「映画観てると『本当にこんな人いるの?』って感じると思うんですけど、慶應義塾大学の教授で、日本のインターネットの礎を築いた村井純さんっていう「ミスター・インターネット」と呼ばれている方がいらっしゃるんですけど、その方の勉強会(合宿)に金子さんも参加されてたりして、そこに行くと金子さんと会ったことがある人がたくさんいて、先日、そこで試写会を行ったんです。そしたら、東出くんをみて『金子さんかと思った』っていう感想をたくさんいただいて、

東出は18キロ増量して役に挑んだ

例えば、金子さんはパソコンのキーボードの打ち方がすごくソフトタッチな方で、押してるか押してないかわからないぐらいのソフトタッチなんだそうなんです。僕は、撮影してる時、東出さんがキーボード打つ姿をみて『ちょっとソフトタッチすぎないかな…』って、思ってたりもしたんですけど、後からソフトタッチのエピソード聞いて『(東出くんは)なんで、わかったのー』って」

松岡「そういう当時の映像があった?」

松本「ないんで。たぶん、何か乗り移ってたんでしょうね。あと、お姉さんが現場に来た時に、裁判所で佇んでる金子さん役の東出さんを見て、当時のことを思い出されたりとか、本当に似てるんです。仕草とかもマネとかじゃなくて、そこに本人がいるかのような動き、僕が自信を持って言えるのは、今までの東出さんの中で一番いい東出さんが撮れたんじゃないかってこと。それだけは自信を持って言えます」

劇中で三浦貴大さんがかけてる瓶底眼鏡は…

松岡「そして、壇さんとの友情もグッときます。演じる三浦貴大さんの、あの瓶底眼鏡がまたね」

松本「あれは、実際の壇俊光さんが当時かけていた眼鏡をお借りしていて、東出さんのシーンでも、金子さんの遺品をお借りして、本物を身に着けることによって、少しでも感覚を掴んでいただきたいという思いがありました」

松岡「壇さんは、監修としても参加されてるんですよね」

松本「裁判シーンとかも監修していただいたり、撮影前に模擬裁判っていって、実際に本物の弁護士の方に裁判をしていただいて、そこに俳優やスタッフも参加して、当時の裁判を忠実に再現するための裁判をやりました」

松岡「三浦さんは、演じるご本人が目の前にいる訳ですから、緊張しますよね」

松本「僕も、撮影前に何度か実際の裁判を傍聴しにいってるんですけど、やっぱり被告の方にとっては人生がかかった裁判じゃないですか、その緊張感たるやすごくて、それを映画の中に盛り込みたいなと思っていました。吹越満さん演じる秋田弁護士と渡辺いっけいさん演じる北村が対峙する場面は、ものすごくスリリングで、緊張感がすごかったです」

エンドロールの最後まで…

開発者の未来と権利を守るために、警察権力やメディアと戦った金子さんや、檀さん。それを、すごい熱量で闘いながら体現した東出昌大さんと三浦貴大さん。そして、ふたりを支える、あるいは敵対する勢力に、渡辺いっけいさん、吹越満さん、吉岡秀隆さん、吉田羊さんが扮し、見応えたっぷりの社会派ドラマに仕上がっています。

最後に「Winny事件を知らない人にも、楽しんでいただけるように考えて作りました。いろいろ言いましたが、まずは何も考えずに気楽に感じたままを楽しんで、そしてねエンドロールの最後までご覧いただきたい映画です」とアピール。笑顔で会場を後にしました。

映画『Winny』はミッドランドスクエア シネマほか全国大ヒット公開中です。ぜひ劇場でお楽しみ下さい。

【動画】楽屋裏トーク

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作品概要

【ストーリー】2002年、開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開をする。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。次々に違法アップロードした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先、開発者金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。そして、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する――。

作品名: Winny
監督:松本優作
出演:東出昌大 三浦貴大 渡辺いっけい 吹越満 吉岡秀隆 吉田羊
公式サイト: https://winny-movie.com/
公式Twitter: @winny_movie
日本/2023/127分
©2023映画「Winny」製作委員会

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