『仕掛人・藤枝梅安』豊川悦司さんが明かす芝居の心強い味方になったものは?

3日公開され大ヒット中の映画『仕掛人・藤枝梅安』の公開記念舞台挨拶が、5日ミッドランドスクエア シネマで行われ藤枝梅安役を演じた主演の豊川悦司さん、河毛俊作監督、エグゼクティブプロデューサーの宮川朋之氏が揃って登壇。作品への想いとともに撮影中のエピソードを披露しました。

「映画をご覧になったあとに行われる舞台挨拶はちょっぴり緊張します」と豊川さん会場の観客の温かい出迎えにホッとした様子で「大丈夫ですね」と頬をゆるませました。

 

豊川悦司さんが藤枝梅安に!とても緊張したという鍼のシーンは?

『仕掛人・藤枝梅安』は「鬼平犯科帳」「剣客商売」とともに時代小説家・池波正太郎の人気シリーズとして長く愛されている作品。豊川さん演じる主人公の梅安は、表では鍼医として人の命を救いつつ、裏では仕掛人として殺し屋の顔を持つ役どころ。形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、渡辺謙ら早々たる顔ぶれが演じてきた役どころだけに正直最初は役を受けるか悩んだそうですが、演じるにあたってかなり鍼を打つ練習を重ねたそう。

「もちろん完璧にはなかなかいかないんですけど、梅安は鍼医者なので手元の裁きも含めてきっちりやりたいという思いがありまして鍼指導の先生について練習させていただきました。とはいえ、実際には免許がないので人の体に打つことはできないので、動きはそのままに針はあとからCGで足していただいてるんですけど、抜くのは本当に僕がやっていて(抜く中には)女優さんもいるので緊張しました」と撮影を振り返った豊川さん。

宮川プロデューサーも「豊川さんの鍼を持つ指がとても綺麗で、細い鍼を持った時の指が本当に美しくて…」と賛辞を惜しまない。

豊川さんをキャスティングした理由について宮川プロデューサーは「キャスティングの理由だけで1時間ぐらい話せます」とニッコリ笑うと「原作に6尺の大男って書いてあるんけど、6尺というと181cm、豊川さんは185cm。藤枝梅安が生きた時代の平均身長は158cmだから、そんな長身ならモンスターに見えただろうってところ。そして圧倒的な色気ですよね。色気を出すのではなく、駄々洩れて匂い経つような。あとは光と影その両面を表現できる難しいお芝居が要求されるので、それに応えられるのは豊川さんしかいないと思いました」と語りました。

一方、河毛監督は「僕の梅安のイメージは闇に潜む黒豹のイメージなんだけど、豊川さんのアクションって、ある時点まではすごくゆっくり間をとっていて、瞬間にパッといくっていう難しいアクションなんですけど、コンテンポラリーダンスみたいな体の残し方をしていて、標的に忍び寄っていくところなんていうのは、まさに黒豹みたいでした」と豊川梅安を評しました。

梅安を演じるにあたって、4~5キロほど鍛えた豊川さん。家中のぬいぐるみを鍼だらけにしたエピソードも

 

本作で藤枝梅安の相棒になるのが、仕掛人で楊枝作りの職人・彦次郎

「『梅安の相棒となる彦次郎はどんな方がいいだろう?』と監督、プロデューサーからお話をいただいた時に真っ先に浮かんだのが片岡愛之助さん。歌舞伎俳優として時代劇のプロフェッショナルでありながら、映像経験がとても豊かで、愛之助さんなら頼もしい相棒になってくれるんじゃないかと、実際素晴らしい相棒になってくれました」と豊川さん

宮川Pも「彦さんと梅安さんのふたりっきりのシーン。ふたりの声がすごくよくて。何回みても『彦さん』『梅安さん』というあの感じは、豊川さん愛之助さんのふたりだから出せた雰囲気で、監督もその部分は非常に丁寧に演出していらっしゃったので嬉しかったです」と明かすと河毛監督も「もちろん会話の妙というのもありますけど、何も喋らずとも気持ちが通じ合う、ふたりがいるだけで空間が満たされていくというのもありまして、ふたりが炬燵で飲んでる長回しのシーンがあるんですけど、何も喋ってないのに気持ちが通じ合っているようなあの感じ、何も喋らないって難しいんです。何も喋らないし、ひとりは寝てるし、それでも何かも交流を感じて、そっと梅安が彦次郎に羽織をかける。あぁいう空気感はやっぱり素晴らしいし、梅安さんが羽織をかける前に見下ろして英さんをみている、素晴らしいシーンのひとつになったと思ってます」と興奮気味に語りました。

スタジオ中に広がるいい匂い。芝居の心強い味方になったものとは?

池波正太郎作品の魅力のひとつが、登場する料理。本作にも観終わったあと思わずマネして作りたくなるような美味しそうな料理が登場する。「今回、料理監修ということで、分とく山の野﨑洋光総料理長が現場にずっとついて下さってて、スタジオの隅の暗いところでカセットコンロで(劇中に登場する)料理を作って下さっていて、そうするとスタジオ中に、その匂いがふわぁああと広がっていって、キャストもスタッフも、その場にいる全員が池波先生の作品の世界に連れていかれるような感覚になって、もちろん料理によっては、口にしなかったり場合によっては蓋を開けられることさえない料理もあったりするんですけど、そういうのも全部作って下さっているので、芝居の心強い味方にもなってくれたし、映画の素晴らしい出演者のひとりになっていると思います」と振り返った豊川さん。

公式サイトではレシピ動画を公開しているので興味のある方はぜひ

料理だけでなく、美術や衣装、世界観にいたるまで丁寧に描かれているのが印象的な本作、それについて河毛監督も「江戸時代は、今の僕たちの生活とは全く違う光の中で生きていて、撮影に入る前に谷崎潤一郎の※陰翳礼讃を読み返したりもして、和室ならではの光の入り方とかそういったものを調べなおしつつ、照明部のみなさんと、実際に誰も見たことはないんだけども、江戸時代の人たちがみていただろう景色を想像しながら再現して、文学的な物語としても光と影が織りなす物語なので、そこをテーマに明かりは意識しました。映画って映画館で観るのがいいんです。配信や他の媒体もあるけど、映画館で2時間作品世界にトリップして、登場人物のひとりとして楽しんでもらいたいし、映画館に来ていただきたいという気持ちをこめて作りました」と想いを語りました。

※陰翳礼讃は、谷崎潤一郎の随筆。電灯がなかった時代の日本の美の感覚や、生活について記した作品

「時代劇といえば、剣のイメージが強いんだけど、剣は明朗な感じがする。それに対して鍼は、陰。この物語は侍の話ではなく町人のおはなし。剣術=権力だとしたら、鍼=反権力。ダークヒーローの武器として梅安の武器を鍼にしたのは、エンターテイメント上ですごい発明だなあと思います」と監督。

最後に豊川さんが「もちろん一所懸命いろんな思いで作った映画ではありますけど、映画が公開されて僕らの手を離れた作品がみなさんのものになったら嬉しいです。観てない方にお声かけしていただければ、それに勝る喜びはありません」と締めくくり、会場をあとにしました。

映画『仕掛人・藤枝梅安』第一作目が現在公開中、続編となる第二作目の公開は2023年4月7日公開。

作品紹介

【ストーリー】江戸の郊外、品川台町に住む鍼医者の藤枝梅安(豊川悦司)にはふたつの顔があった。腕の良い鍼医者の表の顔と、“蔓(つる)”と呼ばれる裏稼業の元締から金をもらって、生かしておいては為にならない奴らを闇に葬る冷酷な“仕掛人”の裏の顔だ。ある晩、同じ仕掛人で表向きは楊枝作りの職人・彦次郎(片岡愛之助)の家に泊まった梅安は、帰り道、浪人・石川友五郎(早乙女太一)が刺客を切り捨てる場面を目撃する。刺客が死んだことを確かめ、医者が出る幕ではないと悠然と立ち去る梅安。その日のうちに蔓である羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋・万七の内儀・おみの(天海祐希)の仕掛を依頼される。三年前、万七の前の女房・おしずを仕掛けたのは他ならぬ梅安だった。梅安は万七の女中・おもん菅野美穂と深い仲になり、店内情を聞き出す。おしずの死後、水茶屋にいたおみのが店の主・善四郎(田山涼成)の後妻となってから、古参の奉公人たちが次々と去り、店の評判は落ちる一方だが、儲けだけはあるという。おみのが店に見栄えのいい娘を女中として雇い入れ、客をとらせていたのだ。おしず殺しの依頼人はおみのなのか殺しの起り依頼人の身元を探るのは、仕掛人の掟に反すると知りながら、梅安は三年前のいきさつを知りたいと動き始めた。ある日、梅安は料理屋を訪ね、仕掛の標的である内儀・おみのの顔を見て息を呑む。それは梅安に暗い身の上を思い出させる対面だった。

『仕掛人・藤枝梅安』
【出演】豊川悦司 片岡愛之助 菅野美穂 小野了 高畑淳子 小林薫
● 第一作ゲスト:早乙女太一 柳葉敏郎 天海祐希
● 第二作ゲスト:一ノ瀬颯 椎名桔平 佐藤浩市
【原作】池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』(講談社文庫刊)
【スタッフ】監督:河毛俊作 脚本:大森寿美男 音楽:川井憲次
【上映時間】第一作:134 分/第二作:119 分
ⓒ「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
配給:イオンエンターテイメント 映画公式サイト:baian-movie.co

 

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