役所広司、吉沢亮共演『ファミリア』で成島出監督がこだわった“本物”が突き刺すリアリティー

差別や偏見、はびこる暴力…
国や人種を越えて育まれていく「家族」の物語『ファミリア』

陶器職人の主人公。世界で活躍する息子。ひょんなことから、ふたりが知り合うこととなる在日ブラジル人の若者たち。差別や暴力といった不条理にさらされながらも、今を懸命に生きる人たちを主軸に「家族」という普遍的なテーマに挑んだ意欲作が完成した。監督は『八日目の蟬』『いのちの停車場』などで知られる成島出さん。タイトル『ファミリア』は、スペイン語では家族を、英語では親友を意味する言葉。この言葉通り、国や人種といったさまざまな違いを乗り越えて「家族」という名の絆で結ばれていく物語です。

先日、映画の PR のため名古屋を訪れた成島出監督にインタビュー。地元、豊田市をはじめ愛知県各所でも撮影が行われた本作にこめた思いをたっぷり語っていただきました。

本作は、愛知県瀬戸市の窯業の家に生まれ育ち、在日ブラジル人が多く暮らす環境も近くにあった、脚本家・いながききよたか氏によるオリジナルストーリー。そのプロットを読んだ時、成島監督は「これは映画にしたいなと思った」と振り返ります。「役所広司さんが演じる役は誠治さんっていうんですけど、実際にいながきさんのお父さんの名前もせいじさんで瀬戸で焼き物をなさってて、山ひとつ越えると団地があって実際にブラジルの方達が住んでいて、劇中で描かれているような世界が広がっている。テロ事件にしても、実際に彼の知り合いが、テロに巻き込まれた会社に勤めていて、その時に受けたショックを盛り込んでいて、、地に足が着いていた。人が亡くなったり、暴力や差別を題材にしているからこそ『安直に扱えない』っていう思いもあったんですけど、物語のベースになっているものが本物だったので『これはやってみたい』と思いました」

窯業を営む主人公・誠治を演じるのは、成島監督とも何度もタッグを組んでいる役所広司さん。半年かけて焼き物を本格的に学んで本作に挑んでいます。

奥さんに先立たれ、山里で一人窯業を営む主人公・誠治を演じるのは役所広司さん。監督が脚本デビューを果たした『大阪極道戦争 しのいだれ』以来30年来の仲、2023年5月に公開される次作『銀河鉄道の父』でもタッグを組んでいます。「役所さんは、陶芸そのものはやってないんですけど、焼き物がお好きで、京都の行きつけの店が同じだったり、たまたま僕と同じ唐津の陶芸家の方と仲良くなさってたりして、焼き物の趣味があったんですね。知り合いの陶芸家も蹴ろくろ(足で回転させるろくろ)で、電動ろくろが主流の中珍しいんですけど、劇中でも蹴ろくろでやってもらってて、僕も調子に乗って「スッと一発で挽くのをワンカットで撮りたいんですけどどうですか?」って言ったら、「う~ん…」って(渋い)表情に変わって。それって、ものすごく難しいことだったんですけど、結果できました。映画だから、手元はプロで引いたら役者さんというのが普通の表現方法なんですけど、それだとなんか寂しくて。あと、吉沢亮さん演じる学(まなぶ)と親子で手を合わせて一つの器を挽くっていうのが、大事なシチュエーションだったので、そこをカットで割りたくなくて、親子の重なる手でひとつのものができるっていうのをちゃんとやりたくて、役所さんもその意図をすごくわかって下さって、できるまで練習して下さいました。」

一方、誠治のひとり息子で、プラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任する学を演じたのは吉沢亮さん。コミカルから硬派な役どころまで、幅広く活躍する彼が本作で演じたのは、リベラルな考えを持つ青年。現地で難民出身のナディアと出会い結婚した彼は、その報告とある決意を胸に一時帰国する。「吉沢くんとは、今回が初めてで。年齢やキャリアを重ねると、こうなんとなく色が着いたりするもんなんだけど、彼は無色透明というか、本当に稀有な俳優さんで『難民キャンプで育った中東の女性を嫁さんにして故郷に帰ってくる』という設定も違和感なくスッとなじむんですよ。役所さんとふたりで、土をこねたり、ふたりでろくろに向かったり、親子でこう手を合わせてひとつの器を挽くときも、画(ふたりでいる姿)がもう親子なんです」

父と息子の物語と同時並行で描かれるのが、在日ブラジル人の若者たちの物語。半グレに追われた青年マルコスを誠治たちが助けたことから、誠治たちは別の世界と繋がっていく。マルコスを演じるサガエルカスさんやエリカを演じたワケドファジレさんら外国人キャストは、ほぼ演技は未経験。各地でオーディションを行い、キャストを見出した監督は、彼らのバックボーンも役に投影することで、よりリアルな人物像を構築していった。「彼らとワークショップを行う中で、子どもの頃の話にとてもリアリティがあったので、それをなるべく使うようにしました。マルコスを演じたサガエルカスくんは、日本で生まれ育ったとはいえ、両親がブラジル人だからポルトガル語しか話せないのに、小学校に入ったらいきなり日本語での授業だから、置いてけぼりになってしまって、いじめもあったりして苦労してきたんですね。そして国籍はブラジルなのに、ブラジルに行ったこともない。祖国を見たことがないんです。『日本人にもなれない!ブラジル人でもない!』と叫ぶ台詞はそこから生まれました。彼の実感ですよね。嘘がない、彼らの悩みや苦悩を、映画の中に持ち込みました。ルイ役のシマダアランくんもそう。ビッグになって団地を抜け出したいってラップでやっている設定ですけど、実際にも仲間たちとラップグループを組んで活動している。そんな彼らと、触れ合いながら映画を作っていくのは、すごく面白かったです」

団地で暮らすブラジル人のエリカたちからパーティーに招待された誠治たち「劇中でも陽気に踊っていますが、彼らにとってはあれが日常、普通にサンバ踊ってましたよ」と成島監督

 

地元を牛耳る半グレたちの、言いがかりにも近い理不尽な要求のせいで、次第に窮地に陥っていくマルコスたち。目を覆いたくなるようなシーンも登場する。半グレのボス榎本を演じたのは、ミュージシャンとしても活躍するMIYAVIさん。「MIYAVIさんは、世界中の難民キャンプを回っていて(日本人初のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の大使に就任、ワールドツアーで各地を回りながら難民の現状を伝えている)虐待されたり、家族を殺されたり、祖国を失った人たちの痛みを日本でいちばん知ってるミュージシャン。だからこそ、彼の拳で殴ってもらいたかったし、ちゃんと痛みがわかっている人にあの役をやってもらいたくて…」と語った成島監督。

「差別や暴力、分断される世界の中で、それでも希望を失わないで欲しいと思ってこの映画を作りました。希望の光を感じていただけたら嬉しいです。ぜひ、劇場でご覧になって下さい」と最後の言葉を結んだ成島監督。映画『ファミリア』は、2023年1月6日より、ミッドランドスクエア シネマほか全国公開です。

佐藤浩市さんが、誠治とは旧知の仲で刑事の駒田役を演じています

 

ちなみに、劇中に登場する窯は、映画のために作ってしまったんだそう。「理想の窯は沖縄にあったんですけど、そうすると設定が沖縄になってしまうので、千葉県の房総半島にちょうどいい家があったので、理想の窯の持ち主であるポールさんにお願いして窯を作ってもらいました。すごいのは、本当に火入れができる窯で。実際に火入れを何度かして、使い込んだ雰囲気ができあがりました。あのカタチがいちばん原始的な窯で、劇中で柱みたいにボォオオってなる炎も本物なんですよ」と嬉しそうに話してくれた成島出監督。本物が生みだすケミストリーをぜひ映画館でご体感下さい。

聞き手 松岡ひとみ 構成・文 にしおあおい

作品紹介『ファミリア』

【ストーリー】陶器職人の神谷誠治は妻を早くに亡くし、山里で独り暮らし。アルジェリアに赴任中の一人息子の学が、難民出身のナディアと結婚し、彼女を連れて一時帰国した。結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に反対する誠治。一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコスは半グレに追われたときに助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つ。そんなある日、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲い……。

作品名:『ファミリア』
監督:成島出
出演 :役所広司
吉沢亮/サガエルカス ワケドファジレ
中原丈雄 室井滋 アリまらい果 シマダアラン スミダグスタボ
松重豊/MIYAVI
佐藤浩市
配給:キノフィルムズ
公式サイト https://familiar-movie.jp/
公式Twitter @familia_movie
©2022「ファミリア」製作委員会 映倫:PG12

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