中野量太監督、オダギリジョーとの“10年越しの信頼”と作品への想い語る『兄を持ち運べるサイズに』公開記念イベントで

11月28日(金)より全国公開された映画『兄を持ち運べるサイズに』。

公開直後の週末となる11月30日、ミッドランドスクエアシネマと伏見ミリオン座で、公開記念イベントとして中野量太監督によるティーチインが開催されました。

『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』など、一貫して「家族」の姿を描き続けてきた中野監督が、5年ぶりの最新作として選んだのは、作家・村井理子氏の実体験に基づくノンフィクションエッセイ『兄の終い』。

観客とのティーチインでは、オダギリジョーさんの知られざるアドリブの数々や、監督が「どうしても撮りたかった」というシーンの深い意図、そして思わず唸る「好きなセリフ」まで、濃密なトークが繰り広げられました。

シネピーでは、ミッドランドスクエアシネマで行われたティーチインの模様をレポートします。

映画『兄を持ち運べるサイズに』
幼い頃から自分勝手な兄に振り回されてきた作家の理子(柴咲コウ)のもとに、疎遠になっていた兄(オダギリジョー)が孤独死したとの知らせが届きます。

理子は、兄の元妻・加奈子(満島ひかり)やその子供たちと共に、兄が遺したゴミ屋敷のようなアパートの片付けに奔走することに……。

本作では、兄の後始末に追われる「てんてこまいな4日間」を通して、バラバラだった家族がもう一度向き合い、それぞれの想いを再確認していく姿を描かれます。

10年ぶりのタッグ、オダギリジョーの“変化”と“変わらない凄み”


本作で、物語の柱となる“ダメな兄”を演じたのはオダギリジョーさん。『湯を沸かすほどの熱い愛』以来、約10年ぶりの参加とあって、関係の変化についてユーモアたっぷりに語った監督。

「10年前のオダギリさんは、テストのたびに違うことをする人で、突然『ここでソフトクリーム食べながら芝居したい』とか言い出して、大変だったんです(笑)。でも今回は、ほとんど脚本通りにやって下さって。理由を聞くと『面白い本の時は脚本通りやるんだよ!』って。じゃあ10年前は面白くなかったのかと(笑)」

オダギリさん自身も本作について「家族って簡単なものではないけど、思い切っていつもより近づいて素直に向き合いたいと思わせてくれる作品」とコメントを寄せていますが、撮影現場ではその信頼関係の上で、“オダギリ流”の「味付け(アドリブ)」が炸裂していたそう。

なかでも、面白かったのが木魚を叩くシーン。

冒頭のシーン「最初は本当に嫌な奴に見せたい!」とオダギリさんにリクエストした監督でしたが、オダギリさんの演技は予想の斜め上を行くもので。

「泣き叫ぶ『泣き女』のような芝居をしていて、突然、木魚を叩き出したんです。あれは指示していません(笑)。実は勢い余って木魚の先がポンと折れて飛んでいったんですが、さすがに嘘っぽいのでそこまでは使いませんでした」

と裏話を明かしています。

また、劇中で警備員姿を見せるシーンでも、口で「ピ・ピ・ピ」と音を出すのはオダギリさんのアドリブ。セリフは脚本通りでも、キャラクターの“生っぽさ”を独自の感性で肉付けしていたことが明かされました。

そして、オダギリさんが柔道着姿で走るシーンにも裏話が。

「あそこは、なかなかタイミングが合わなくて何回も撮り直していたら、彼が『あと1回走ったら、僕は吐きますから』と脅してきて(笑)。結果的に無事に撮れてよかったです」とニコニコしながら話してくれました。

さらに、何度も撮り直して苦労したのが、理子(柴咲コウ)が家族と家にいるシーン。実はこの場面、スケジュールの都合で撮影の「一番最後」に撮られたものだそうです。
「『親としての理子』と『妹としての理子』を演じ分けるプランだったのですが、最後に親としての部分を撮ることになり、なかなかうまくいかなくて。『もう一回やりましょう』と粘って、テイクを重ねて作り上げました」

SNS時代の風潮へのアンチテーゼ?
観客から「どうしても撮りたかったシーン」を問われ、クライマックスのシーンを挙げた監督。登場人物たちが、それぞれの心の中にいる「兄」の姿を見るシーンは、心に深い余韻を残します。

「最近はSNSなどで、会ったこともない人を『この人は悪だ』と一面だけで決めつけてしまう風潮があります。でも人間はそんなに単純じゃない。見る人によって『兄』の見え方は全部違うし、それが正しい。それを表現するために、原作にはないんですが、どうしても入れたかったんです。」

監督曰く、本作の構成は「原作6割、取材2割、オリジナル2割」。このシーンや、ラストの展開は、映画ならではの“2割”のオリジナル部分だそう。

役者陣の演技により「想像を超えたいいものが撮れた」と嬉しそうに語ってくれたのが印象的でした。

監督が選ぶ「好きなセリフ」は?

イベント終盤、「監督ご自身が好きでこだわったセリフは?」という質問に対し、中野監督はいくつかの「名台詞」を挙げました。

元妻の加奈子(満島ひかり)がタキシードを着せてあげた後の一言。どうしようもない兄への愛憎が入り混じった、監督お気に入りのセリフです。

「お金がないのにね、幸せな人なんか会ったことがない。あの人はやっぱりダメな人だ」

帰りの新幹線でお金がないことに気づいた時の加奈子のセリフ。「大好きな台詞!」と監督は笑顔を見せました。

10年前なら撮れなかった?
オダギリジョーの表情に…

柴咲コウさんも絶賛したというのが、ラスト近く、理子が「もし私とお兄ちゃんが逆だったら助けてくれた?」と聞いた時のオダギリさんの表情。
「なんとも言えない優しい顔をするんです。10年前ならできなかったんじゃないかと思う、年を重ねた今の彼だからこそ撮れた表情です」と力強く語りました。

「明日のあなたの真実」になるかもしれない
中野監督は、本作について「自分の身にも起こるかもしれない話です。もしかしたら、この映画は、【明日のあなたの真実】になるかもしれません」と語っています。

ティーチインの最後でも「この映画を見て、自分の家族のことを思ったり、誰かに伝えたくなったりするきっかけになれば」とメッセージを送った監督。

会場では自身の境遇と重ねて涙ぐむ観客や、「遺骨になる前に親と話しておこうと思った」という感想も飛び出し、映画が持つ“対話を生むチカラ”を改めて感じさせる温かな時間となりました。

映画『兄を持ち運べるサイズに』は、現在大ヒット公開中です。ぜひ「映画館」でご覧下さい!

取材・文:にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)

脚本・監督:中野量太
音楽 世武裕子
原作 村井理子「兄の終い」(CEメディアハウス刊)
出演
柴咲コウ
オダギリジョー 満島ひかり
青山姫乃 味元耀大
斉藤陽一郎 岩瀬亮 浦井のりひろ(男性ブランコ) 足立智充 村川絵梨
不破万作 吹越満
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

公式サイト https://www.culture-pub.jp/ani-movie/

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