スケールも熱量も規格外の映画『宝島』に 大友啓史監督が込めた想いとは?

歴史の陰に埋もれた、アメリカ統治下の沖縄の真実を描き切った真藤順丈氏の直木賞受賞作『宝島』を映画化。

監督に時代劇からアクション、SF、ドラマ、ミステリーやファンタジーまで、
常に新たな挑戦をし続ける大友啓史(「龍馬伝」『るろうに剣心』シリーズ『レジェンド&バタフライ』)、
主演に妻夫木聡を迎え、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら日本映画界を日本最高峰のキャスト・スタッフが集結。
構想6年!総製作費25億!ロケ地43箇所!エキストラ延べ5000人!
日本映画史に残る壮大なスケールと圧倒的な熱量で、激動の時代、自由を求めて駆け抜けた若者たちを描く、
衝撃と感動のエンターテインメント超大作『宝島』が、いよいよ9月19日に公開されます。

劇場と観客の方たちに直接映画を届けたい!と、公開3ヶ月前から宣伝アンバサダーを務める妻夫木さんと共に全国を駆け巡ってきた大友監督に、シネマピープルプレスの編集長で、映画パーソナリティの松岡ひとみがインタビュー!
『宝島』に込められた熱い想い、圧倒的な熱量の源について聞きました。

目次

【お客さんに手渡しで届けたい】

松岡ひとみ(以下:松岡):今回も素晴らしい作品をありがとうございます。監督は作品毎に名古屋に来てくださるので嬉しいです。
今回は皆さんの声を聞きたいということで、全国に行かれているそうですね?

大友啓史監督(以下:監督):そうです。特に今回の映画は、映画を観終えてよかったねっていうことだけで終わらせたくない。
色々なことを持ち帰ってもらいたいと思って作った作品なので、お客さんのリアクションが見たかったんです。
いつも以上に映画を通してお客さんとコミュニケーションができると思いましたし、お客さん一人ひとりの目を真っ直ぐに見ながら、手渡しで届けたいという気持ちが強い。
ですから、いつもの宣伝の感覚とはちょっと違いますね。最初に映画を観ていただく方には、私たちの言葉も添えながら丁寧に届けたいという想いが、僕も妻夫木くんもすごく強いんです。

松岡:ドキュメンタリーのように撮られていましたが、3時間飽きることなく観られました。
22歳の映像クリエイターの子は予告編を観ただけで熱く語っていたんですよ(笑)。知らなかったです、私!って。若い世代にも響いてますね。

監督:ありがとうございます。大切なのはお客さんに届けることですからね。手練手管を尽くしてきちんと届くようにする。
大切な話だからこそ、大切な問題だよってプレゼンテーションするのではなく、まずシンプルに物語として楽しんでもらう。
試写では、沖縄のことを何も知らない若い子たちが普通に楽しんでくれていました。それは物語の力だと思います。
自分たちにとって大切な英雄(オン)がいなくなって、その背中を追い求めながら、(グスク、ヤマコ、レイが)三者三様の生き方をしていく。
その果てに思いもしなかった英雄の真実を発見する物語。
ミステリー、サスペンス、人間ドラマでもあるし、アクション、エンターテインメントを含めて、お客さんにジェットコースターに乗っているかのように、登場人物たちと同じように出来事を体感しながら3時間付き合っていただいて、その果てに彼らがあの時代、どういう想いで生きていたのかを、観た方それぞれに持ち帰っていただければ。
それがあの時代に沖縄で起きたことを知る、そこに興味を持っていただける入口にもなるんじゃいなかなと。
難しいテーマですから軽々しくエンターテインメントにしますとは言えないけれども、作り手としてそこはこだわったところです。
1分たりとも飽きさせずに見せ切るんだという想いがありました。

【沖縄の人たちの感情の厚みを映画に】

松岡:サスペンスに引き込まれて、瑛太さん演じるオンちゃんを、レイ、グスク、ヤマコの3人と一緒に探していく感じなのですごく観やすいと思います。
3時間という長さは感じませんが、映画を観たー!という満足感はありました。実はこの映画もう少し尺が長くなる予定だったとか?

監督:原作がものすごく分厚くて、単にページ数が多いだけじゃないんです。そこに込められている人物たちの感情の“埋蔵量”が本当にすごい。
当時のアメリカ統治下で起きた出来事をちゃんと追っているので、色んな事件や状況が描かれているんですが、それだけじゃなく、そこで生きている人たちの感情の量がとにかく多いんです。
アメリカの統治下で暮らしていた沖縄の人たちは、それだけ多くの想いを抱えていたんだと思います。
まだ日本じゃなかったわけですからね。本土に行くにも、パスポートが必要な時代だったんですよ。

松岡:それは若い方は知らないと思いますし、知っていた私も忘れていました。

監督:そういう時代、戦争の記憶がまだ生々しく残っていた時代。戦争が終わったのが1945年で、この物語は1950年から始まります。
圧倒的に強いアメリカ、圧倒的に豊かなアメリカ。その中で、沖縄はまだ日本ではなかった。普通なら、日本政府とか憲法とかが間に入って守ってくれるわけですが、それがない。琉球政府という小さな政府が、直接アメリカと向き合っていたわけです。
だから、日常をなんとなく過ごしていたという感じではなくて、最後の「コザ騒動」で、彼らのいろんな想いが爆発したんだと思います。
原作の“分厚さ”とは別に、本当にそこに生きていた人たちの感情の“厚み”を思うと、3時間でも本当は足りない。
僕は昔から、(ベルナルド・)ベルトリッチの『1900年』って映画が大好きで、あれは5時間を超えてますし、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』も本当に好きで、4時間以上あります。『ゴッドファーザー』だって、二部作で描かれてますよね。
だから、偉そうなことは言えないですけど、映画的な風格を持った歴史劇には、それなりの“尺”が必要で、ちゃんとその尺の中で観客を巻き込んでいく力があると思っているんです。
でも今の時代では、そう簡単にはいかない。
脚本を作りながら、ギリギリのラインをずっと探し続けて、「これは必要だ」と思っていたシーンも泣く泣く落としたりしながら作っていきました。
それでも僕としては正直ビビっていて(笑)。
最初に、配給の東映さんとかソニーさん、プロデューサーチームの方々に、まだ編集が完全に終わっていない、普通なら絶対見せない段階(3~4ヶ月前)で観ていただいたんです。
「どうですか?」って。普通なら「短くしてください」って言われるんですけど、今回は誰も言わなかった。それがすごく嬉しかったですね。
僕自身も、必死で5分くらいは切ったんですけど(笑)。
今の観客の“生理”って、変わってきていると思うんですよね。
だからこそ、ちゃんと最後までスクリーンで観てもらえるように、“観客を連れていける工夫”は映像的にも色々してます。
アクションも交えたり、音の演出も工夫して、とにかく「3時間がアッという間だった」と言ってもらえるように、色々と紡ぎました。

【監督の熱量の源とは】

松岡:いやいや、本当に……どこを切ればいいのか、私には分からないくらい。圧巻でした。
ずっと、何か熱いものが込み上げてくるというか、すごいエネルギーを感じました。
監督のその熱量って、どこから来るんでしょう? 映画に対する、その熱意の源は?

監督:やっぱり、”本気でやらないと届かない”って思っているからだと思います。
映画を作るときって、ふたつの目線があると思うんです。ひとつは「神の目線」――つまり、作り手として俯瞰して全体を見渡す視点。
そしてもうひとつは、「登場人物たちの目線」――当事者の感情に寄り添って描く視点。

僕はどちらかというと、撮影しているときは登場人物たちの目線で作っていくんですよね。思いっきり感情移入して、彼らの視点に立って撮っていく。
もちろん事前にいろんなプランは立てるんですけど、現場に入ってみないと本当にどう動けばいいかなんて分からない。
見えている“ふり”をしているだけで、実際には現場に入って、キャストやスタッフと向き合って、やっと見えてくるんです。
技術的には、カメラワークも演出も、いくらでも決められる。でも、“本気モード”になれるのは、やっぱり現場に入ってからなんですよ。
たとえばグスクというキャラクターに、妻夫木くんが入ってくれて、僕もその場で“何を感じるか”っていうところにフォーカスする。
グスクが何を思うのか、それに僕自身も共鳴する。それがすごく大事なんです。

松岡:最初に現場に入って、そこでわかることが多い?

監督:そう。ロケーションに入って、初めて分かることが本当に多い。だから、全部を準備しきらないようにしてるんです。
言い方は悪いかもしれないけど、登場人物たちは、自分の物語の“最後”を知って生きてるわけじゃないですよね。
それこそ『レジェンド&バタフライ』の時に、木村(拓哉)さんが言っていたんです。「この現場は、ワンシーンワンシーン計算している場合じゃないよね」って。
普通の現場なら次のシーンがこうなるから、このセリフはこう演じようとか、全体の構成を考えて組み立てていくんです。
でも今回は違う。「次の展開なんて気にせず、今このシーンを全力で生きるしかない」って。
木村さんがそう言ってくれて、「そうだよね」と。信長だって、先のことなんて分かってなかったんだからって。
この時代は、ましてやそうです。僕も、自分が知らなかった時代を体験していくわけだから、最初から“全部分かってる神様の目線”で作るなんて、できない。
むしろ、発見しながら作っていくんです。沖縄のあの時代を、色んなセットや人物を通して再現しながら、少しずつ見えてくるものがある。
そうやって向き合っていくと、一つ一つの出来事が“他人事”じゃなくなってくる。“フィクションを描いている”って感覚じゃなくなってくるんですよ。
過去を描いてるとか、架空の話を作ってるとか、そういう距離感じゃなくなる。
例えば『るろうに剣心』の剣心ですらそうだったけど、もともとフィクションのキャラクターは、自分が作った存在だから、言ってしまえばチェスの駒のように自由に動かせるんですよ。
でも、そのキャラクターが本当に“生きている人間”に見えてきたら、勝手に動かしたくなくなるんですよね。

その感覚は、エキストラの方々に対しても同じです。
画面の背景に映っているだけの人たちじゃなくて、それぞれの人生があって、そこでちゃんと生きている。
だから雑に扱いたくないし、「はい、動いて」って簡単に言える存在じゃなくなる。
それはスタッフに対してもそうなんです。例えばカメラマン。彼らは、僕のロボットじゃない。
だから僕も「こう動いて、こう撮って」って一方的に指示するんじゃなくて、むしろ「あなたの目で見たときに、このシーンで何を感じるか? それをまず見せてほしい」っていうスタンスで向き合うようになってきたんです。

僕は(スタンリー・)キューブリックのような、すべてを細かくコントロールする“完璧主義”ではないんです。
むしろ、もっと自由に、それぞれの感性を信じて任せるタイプ。
基本的には、自分たちの好きなようにやればいいと思ってるんです。
ただ、それがあまりにも僕の考えやルールから離れてしまったら、そこは修正しなきゃいけない。
でも、そういうスタンスじゃないと立ち向かえない映画って、たくさんあるんですよ。
6年かけて準備したとはいえ、その間ずっとまっすぐ進めてこられたかというと、正直、十分じゃなかった。心がずっと不安定で、不安で…。
むしろ大事に思えば思うほど、目を背けたくなるんですよね。

『宝島』という題材が大切だと思えば思うほど、「これをやれなくなったらどうしよう」というダメージが大きい。
だからどこかで「もしかしたらやれないかもしれない」って気持ちを持ちながら向き合わなきゃいけなかった。全力で行けないんですよ。
本当は全力でこのことだけを考えて作れたらいいんですけど、途中で止まる可能性がある中でやっていると、「もし全力で走って、最後に振られちゃったら…」って考える。
そのときの心の痛みやダメージを思うと、どうしても100%で行けないんです。
だから最初は30%ぐらいの力でずっと動いていて、やっと「やれる」ってなったときに、そこから100%になっていく。
今回、その切り替えのストロークが想像以上に短かった。こんな大作なのに。クランクインしても、まだ「止まるかもしれない」と思いながら撮っていました。

松岡:それって、やっぱり一度プロジェクトが頓挫したことも関係してるんですか?

監督:そうですね。それもあるし、やっぱり〝規模”なんですよ。街をちゃんと作らなきゃいけない。ないものを一から作らなきゃいけない。
今の時代、「VFXでなんでもできるでしょ」って思われがちだけど、そう簡単にはいかない。
漫画原作ならフィクションの人物だけど、今回は違う。この時代を実際に生きていた人たちがいて、その時代を知ってる人たちがまだたくさんいる。
だから無碍に扱えない。
それに、やっぱり本土出身の自分としては沖縄のことを知らなかったっていう、ちょっとした罪悪感もあって…。
そうすると、ちゃんと向き合わないといけないし、彼らの感情をちゃんと届けないといけない。だから手を抜けない(笑)。一切、抜けないんです。

松岡:メインキャスト以外の方々も、皆さん同じ方向を向いていた印象です。
たとえば刑事になったグスクの盟友を演じられた塚本晋也監督。『野火』や『ほかげ』など、戦争のリアルを描く方なので、すごく合ってるなと思いました。

監督:脚本を読んで、塚本さんもやろうとしていることを理解してくださって、比較的早い段階から「やります」と言ってくれましたね。

松岡:沖縄のおばあの役を演じられた方々も、当時を知る方たちでしたよね?

監督:そう、いらっしゃいました。おばあ、たくさん出てくれましたよ。

松岡:その方たちは、どんな想いで参加されていたんですか? 何か話されたことは?

監督:あの方たちは、理屈じゃなくて、歴史そのものが身体に染み付いてるんですよ。見たまんま。
それこそ、基地があったことで経済的な恩恵もあったりはするけれど、映画で描いているように、とんでもないこともたくさんあった。
でも、そういう色んなことを飲み込んで生きてきた人たちなんです。過去を語るというよりも、「今」を生きてる。
だからこそ、その佇まいが自然と沖縄らしさを体現してくれる。
たとえば葬儀や法事のシーン。ああいう場面でも、明るく死を見送るムードがあったりする。沖縄って、死んだら終わりじゃないという感覚があるんですよ。
死んだあとも別の人生が始まって、自分たちを見守ってくれてる。そういう空気を、俳優たちも感じながら演じていたと思います。
妻夫木くんも窪田くんも、完成披露試写会で「死というものを感じながら演じた」と言ってました。
あの時代は今よりもずっと“死に近い”時代だった。だから、いろんな意味で深かったですね。

【知らないことを知るのがエンタメ】

 

松岡:妻夫木さんとは今回が初めて?

監督:いや、『ミュージアム』でカエル男役やってもらってるんですよ。ただ、ほぼ顔が見えない(笑)。

松岡:そうでした!思い出しました(笑)

監督:あのときも一緒にやっていて。今回は脚本を作ってるときに、自然と妻夫木くんの顔がグスクと重なってきたんですよね。

松岡:いやー、本当に素晴らしかったです。

監督:本当に素晴らしかったですよね。ヤマコも、他のみんなも素晴らしかった。

松岡:『涙そうそう』で「なんくるないさー」って涙を流していた妻夫木さんが、今回は「なんくるないさーじゃないんじゃ」って言っていて、あれがグッと胸にきました。その前のことが描かれているということを改めて学ばせてもらった気がします。映画って、本当にいいですね。

監督:僕も、岩手の盛岡の田舎の映画館で、大スクリーンで外国の映画を観ていたんです。映画って、自分の知らない世界を見せてくれるものじゃないですか。
『宝島』も、知らないことだからと触れないんじゃなくて、「知らないことを知る」っていうのが、僕にとってのエンタメなんです。

松岡:学校で貸し切り上映とかできないんですかね?

監督:今ちょうど、プロデューサーが平和教育の一環として、いろんな学校にプレゼンをして回ってるんですよ。

【これから観る方へのメッセージ】

監督:6年かけて、ようやく公開までたどり着きました。きっと多くの方が知らないことも多いと思います。
でもこの映画を通して、あの時代の沖縄に、自分が身を投じているような体験ができるはずです。
映画館で、これまでにない感情を味わってもらえる作品になったと思います。
ぜひ、劇場でご覧ください。9月19日公開です。よろしくお願いします。

動画はこちら!

【STORY】

沖縄がアメリカだった時代。幼馴染のグスク、ヤマコ、レイ、そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーのオンは、“戦果アギヤー”として、米軍基地から奪った物資を住民らに分け与えていた。ところがある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ…。残された3人は刑事、教師、ヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出すー。消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とはー。

監督:大友啓史
出演:妻夫木聡
広瀬すず、窪田正孝
中村蒼、瀧内公美 / 尚玄、木幡竜、奥野瑛太、村田秀亮、デリック・ドーバー、ピエール瀧、栄莉弥
塚本晋也 / 永山瑛太
配給:配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
公式HP:https://www.takarajima-movie.jp

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