伊藤さとりの映画で人間力UP!ホラーは人気がない?でも怖い映画はヒットしている問題で、人間心理を読み解く。『侵蝕』

振り返ってみると今年はホラー映画豊作イヤーで、『ミッシング・チャイルド・ビデオゲーム』に始まり、『見える子ちゃん』や『ドールハウス』、『事故物件ゾク 怖い間取り』、『近畿地方のある場所について』他、日本映画も多く公開されております。ただし、日本映画の宣伝では『ドールハウス』はホラーではなく、ゾクゾク映画という宣伝の仕方をしておりました。その理由は、ある時期に映画宣伝の中で「ホラーは客が入らない」という検証結果が生まれ、大ヒットを記録した『変な家』は、実のところ「何・か・が・“変”」という宣伝文句でホラーとはひと言も発していなかったのです。

では本当にホラーが苦手な人は多いのか?考えてみるとホラーYouTubeチャンネルは人気だし、怪談話が好きな人も居るにはいます。それに『ドールハウス』だって2025年8月の時点で18億突破を叩き出し、ドラマの映画化でもないオリジナル脚本の日本映画にしては大満足のヒット。これはもしかするとホラー=『13日の金曜日』のジェイソンみたいな残虐殺人鬼モノとか、『ソウ』みたいな見ていて痛みを感じる系とか、『ゾンビ』のようなスプラッター系と思っている方が多いのかもしれない。いやいやホラーには沢山のジャンルがある。それで近年の日本映画での怖い系ヒット作を分析すると、多分、精神的に怖さを感じる映画が好まれているのではないかしら。

ということならば、心理スリラーというジャンルなら興味が湧くということ?!幽霊が出るわけでもなく、殺人鬼が残虐行為で周囲を血みどろにするわけでもなく、「ザワザワ」「ゾクゾク」を楽しみたい。そんな願いを叶える映画が一本あり。それは日本映画ではないけれど、とびきりゾクゾクすること間違いなしの韓国映画で9月公開です。この映画『侵蝕』は、本国で韓国実写映画として初登場第1位となった話題作。何がゾクゾクするって、主人公であるはずの幼稚園児のソヒョンの存在!まだ幼いのにお母さんを見つめる目だったり、発する言葉だったり、お友達に対して笑いながら嫌なことをする行為に心ザワザワ。まさかのモンスターを産んでしまった母親の苦悩を観客が見守っていくような映画で、ソヒョンが出てくるだけでゾッとするのですよ。しかもソヒョン役のキ・ソユちゃんは現在8歳なのに、圧巻の演技力。ドラマは『魔女の愛』、映画だと『82年生まれ、キム・ジヨン』などに出演。今、人気の子役だそうですが、見れば納得で、ずっと見ていたいと思うほど存在感もドラマチックなのです。

ちなみにこの映画の宣伝文句は「精神(メンタル)崩壊サスペンス・スリラー」。確かに心理ホラーというよりは、サイコミステリー(異常心理系の推理小説)のような感想を持つ作品です。思えば、血生臭くなく、幽霊が出てきたとしてもそこまで活躍せず、適度なハラハラドキドキを味わえる映画は、ジワジワ怖さを感じるので心臓にも負担がかからないし、気持ち悪さもないので安心。今後は、宣伝文句に「スリラー」が増えるのかもしれません。

目次

侵蝕

監督:キム・ヨジョン
出演:クォン・ユリ、クァク・ソニョン、イ・ソル、キ・ソユ

配給:シンカ
2025/韓国/112分

9月5日(金)より全国ロードショー

https://synca.jp/shinshoku/

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伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)

映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。

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